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※堀鐔
10.友情と恋愛、どっちが大事?
放課後の誰もいない薄暗い教室の、廊下側の壁際に背を付けてしゃがみ込んで、ふたりで声をひそめて話をした。
ときどき廊下を誰かが通るけれど、たぶん誰もこの教室に人がいるなんて気付いていない。
絶対に人に見られないように机の下にまで入り込んで身を隠しているのだから当然だ。
サクラは同じように隣の机の下で、体育座りで体を縮めているひまわりの服のすそを引いた。
「ちょっと窮屈だね」
「うん、すごく」
そしてくすくす笑い合って、足音が聞こえるたびに急いで両手を口に当てて気配を消した。
曇り空の今日は夕焼けも見られず、ねずみ色の空が光を全部遮っていた。
少しだけ寒い。
外はここよりも寒いだろう。
「でも本当に大丈夫? 小狼君、きっと探してるよ?」
「いいの! 今日は、いいの」
心配そうなひまわりにサクラは強く言い放ち、ぎゅっと足を抱え込んだ。
本当なら今頃、サクラは小狼と一緒に帰路についているはずだった。
だけどこうしてひまわりと教室に隠れているのは、ちょっとした反抗心によるものだった。
今日の休み時間、ひまわりと談笑していたサクラを小狼がこっちにおいでと誘った。
小狼は四月一日と百目鬼と一緒に話をしていて、みんなで話そうと誘ったのだ。
そこでひまわりと共に3人が座る席のところへ行って、サクラはすぐに後悔した。
彼らはサッカーの話をしていた。
昨日テレビで放送していたサッカーの試合のこと、好きな選手のこと。
その話題はサクラにもひまわりにも全然付いていけなくて、ただ黙って聞くことしかできなかった。
それなら、ひまわりとふたりで話していたかったのにとサクラは思った。
みんなで話すならふたりにも参加できる話題にして欲しかった、そうでないなら今は誘わなくても良かったのに。
わざわざ仲間はずれにするために誘われたみたいで、サクラは面白くなかった。
だからこうして小狼に何も言わずに隠れて仕返しをしているのだった。
「……ごめんね、ひまわりちゃん。先に帰ってもいいよ?」
でも怒っているのは自分だけで、ひまわりは違っていた。
だから付き合わせてしまって申し訳なく思っていたけれど、ひわまりは首を振った。
「ううん。なんだか、楽しい」
ひまわりは笑って自分の隠れる机を動かしてサクラに近づいた。
「ねぇ、誰が最初にあたしたちを見つけるかなぁ?」
「うーん、誰だろう。見つけてくれるのかな?」
「見つけてくれるよ。だって隠れてるんだもの」
ちょっとだけ机の下から顔を出して黒板の上の時計を見ると、5時を過ぎていた。
「あと30分誰にも見つからなかったら、出よっか」
最初は仲間はずれにした腹いせで隠れたつもりだったけれど、今はかくれんぼみたいで楽しい気になっていた。
けれどかくれんぼは見つけてくれなければ意味がない。
「わたしはモコちゃんたちに見つかると思うな。小さいから、見えないところまで見えてるかも」
「あたしは百目鬼君だと思うな。勘が鋭いから、すぐ気付いちゃうと思う」
「見つかったとき、なんて言おうかな」
きっとみんなびっくりして、でも誰もサクラたちを責めたりしない。
見つかって良かったと無邪気に安心するのだろう。
「そうだ。ひまわりちゃんとふたりきりになりたかったって言おう」
「え?」
「ふたりっきりでお話したかったって、言うの」
楽しそうに小さく笑うと、ひまわりもつられて笑った。
「じゃあ、あたしも。サクラちゃんとふたりきりになりたかったって言おう」
ぱたぱたと誰かが廊下を歩く音がして、ふたり同時にびっくりして、その様子がおかしくてくつくつと肩を震わせた。
残り時間はあと20分程度。
見つけてもらえても、見つけてもらえなくても、どっちでもいいやとサクラはひまわりに寄りかかった。
END
おまけ
「あー、サクラちゃんにひまわりちゃん。何してるのー?」
「ファイ先生……」
「こら。用が無いならさっさと帰れ」
「黒鋼先生……」