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1.友達、だよね?
「大丈夫?」
「これくらい、なんてことな……痛っ!」
「あ、ごめん。強かった?」
ミスティアの腕に包帯を巻いていると彼女は顔をしかめた。
こんなに傷だらけなのになんてことないなんて、そんなことあるはずないのに。
「歌を聴いてって言いたかっただけなの」
「カラスは歌を聴かないよ」
天狗の子分のカラスに近づいたミスティアは、大量のカラスに囲まれて好き放題つつかれた。
彼女は鳥頭だから理解できないんだ。
カラスはスズメを見下してるってことを。
「何でかな、何で仲良くなれないのかな」
「種族が違うからね」
「でも、チルノもルーミアも仲良くしてくれるし、ヤマビコの子も一緒に歌を歌ってくれるし、人間も私の鰻をおいしいって言ってくれるのに」
「じゃあ、それで十分じゃないの。はい、できた。他に痛いところは?」
ない、とミスティアは首を振る。
じわりと包帯に浮かんだ血が痛々しくて私はそっと彼女の傷をなでた。
彼女の愚かさは無知ゆえの無邪気さだ。
「リグルは天敵のはずの私と仲良くしてくれるのね」
「ミスティアは私を突っついたりしないからね」
「当たり前よ」
友達だもの、とミスティアは誇らしげに言った。
私はそれを砂漠の真ん中で立ち尽くしたような気持ちで聞いた。
「私とリグルは別の妖怪だけど、友達、だよね?」
確認するようにミスティアが私を見上げる。
私はにっこり笑う。
「うん。友達だよ」
ミスティアも嬉しそうに笑って、羽をぱたぱたさせた。
彼女の中では友達以外のものは全て敵だと認識されている。
退治しに来る人間とか、偉そうに目を光らせている天狗とか。
だから彼女と争うことのない私は友達で、それは恒久的に続く関係だろう。
私はそれを嘆かない。喜びもしない。
「リグルが友達でいてくれるなら、カラスなんてどうでもいいか」
私は彼女と対立することはないから、ずっと友達でいられる。
私はそれを喜ばない。嘆きもしない。
End