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好きな色は紅と白
里で買い物をしていると、ある雑貨店が在庫処分のため品物を安く売っていた。
欲しいものがあったわけではなかったが、何か良いものがあれば儲けものだと思い魔理沙は並べられた品々を見て回った。
おはじきや水あめのような子供向けのものから、足袋や鍋など実用的なものまで幅広く売られていた。
しかし値段は安くなっているものの買ったところで自宅のがらくたに混ざって価値を失ってしまうことは目に見えている。
自分の収集癖を理解している魔理沙はなるべくじっくり見ずに店内を一周した。
「どうだいお嬢ちゃん、欲しいものはあるかい」
にこやかに店主に話しかけられ言葉を濁す。
「いやぁ、なかなか」
「この髪飾りなんてどうだね。それ、そのリボン」
言われて奥の棚を見る。
かんざしとリボンがいくつか並べられていて、どれも色の派手なものだった。
「お嬢ちゃん、そのきれいな金髪にはもっと明るい色が似合うよ」
屈託無くほめられ、魔理沙もそうかもしれないと思った。
けれど毎日キノコを探し魔法の研究で家に閉じこもり、外に出れば男のような口調で誰にでも話しかける自分が
見た目を気にして着飾るのもどうかと棚の前で腕を組む。
どうせ買うなら香霖堂で珍品を買ったほうが、と視線をそらせていくと、
「あ、これ……!」
棚の端っこにどこかで見たようなリボンがあった。
「んん? それが欲しいのかい、よし、じゃあおまけでこの飴玉もつけてあげるよ」
まだ欲しいとも言っていないのに店主は笑いながらリボンの値札をはがしてしまった。
いちご味の飴玉とリボンを手に、店を出た魔理沙はどうしたものかと考え込む。
赤い生地に白いぎざぎざのついた、霊夢が頭につけているのを小さくしたようなリボン。
せっかく買ったのに使わずしまってしまうのももったいない。
けれどこれをつけて生活するのもとってつけたようで恥ずかしい。
ううむ、と悩んだ末、ためしに魔理沙は今つけている黒いリボンを外し赤いリボンをつけてみた。
せっかくだし、悪いことをするわけでもないし、と言い訳しながら。
似合っているかどうかと鏡を探したが、そんな自分に恥ずかしくなってすぐにやめた。
こんな明るい色なんて似合っているはずがないのだ。
その上あの巫女とおそろいだなんて。
魔女は黒い、派手なのは良くない。
けれどリボンを外そうとしたところで、一番見られたくない人に見つかってしまった。
「あ、魔理沙じゃない。何してるの?」
心臓が跳ね上がって体が固まった。
ゆっくり振り向くといつもの紅白。
「霊夢……お前なんでこんなとこに……」
「買い物だけど」
魔理沙の驚きようを見て不思議そうに霊夢が首をかしげる。
気づかれる前にと魔理沙はあわてて霊夢に背を向けて箒に飛び乗った。
帽子を深くかぶってうつむいて、少々不自然でも気づかれるよりはよっぽどましだ。
霊夢が引きとめようと近づくからさらに心拍数が上がる。
「もう行っちゃうの? おいしいお菓子を買ったから一緒に食べない?」
「わ、悪いな。今は急いでるんだ、また明日にでも神社に行くよ」
せっかくの霊夢のお誘いも断って上昇。
いつも魔理沙が神社に押しかけるから霊夢から誘ってくれるのは珍しいことだけど、それも捨ててしまえるくらい
魔理沙はあせっていた。
ある程度霊夢から離れ、もう下からは見えないだろうと少しだけ安心して前を向く。
そして颯爽と飛び去ろうとしたのに
「ねぇ、そのリボン可愛いわね。おそろいにしてくれたの?」
その言葉のせいで箒ごと落っこちた。
End