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Menschen fresser
ユゥイは自分が冷静さを欠いているとわかっていたが、感情の昂ぶりを抑えることができずにいた。
苛立ちと焦燥で周りが見えていない。しかし冷静になどなれるはずもない。
魔物の王を倒すために兄は6日前に1人で出て行った。
あのとき、兄を傷つけてでも止めるべきだった。
魔法で音と気配とにおいを消し、ユゥイは不気味な森を乱暴な足取りで進んでいく。
気味の悪い魔物たちが飢えた目でうろついているがユゥイは気にも留めず最奥を目指して歩く。
要請を受けて支援にやってきた国でのやり取りは、思い出すたびに憤死してしまいそうになる。
最初の会議でファイがひとりで行くと言い出したあと三日間続いた会議には、ユゥイは一度も出席させてもらえなかった。
あなたはまだ出撃しないのだから、今の作戦を聞いてはいけません、先入観にとらわれてしまいます、と。
あのときからずっとこの国はおかしいと思っていた。
すでにファイがひとりで討伐に向かうと決まっているかのような言い方だった。
この国は魔物と交戦するというのに惨敗するまでどこにも助けを求めず、ようやく救援を要求したと思えばファイとユゥイのいる国にだけだった。
もっとたくさんの国に呼びかければ助けてもらえるのに、頑なに拒否する。
隠そうとしているようだと気づいたのは、ファイがひとりで魔物の森へと旅立ったあとだった。
最初、この国の人々は、これで平和になるかな、と不安と期待を込めた言葉を発していた。
しかしその日の夜、彼らの態度は急変した。
あの生贄で魔王が満足してくれたら平和になるのにな、と酒場の隅で酔っ払いが騒ぎ出したのだ。
偶然その場に居合わせたユゥイはただの酔っ払いのひとりが騒いでいるだけだと無視していたのだが、周りもそいつに同調し始めた。
そうだ、あれは綺麗な男だったからな、女でなくてもいい生贄になってくれるだろう。
20人ほどの人だかりの中からそんな声が聞こえた瞬間にユゥイは椅子を蹴って立ち上がった。
止める人も数人いたが役に立たなかった。
向かってくるユゥイを見て彼らは揶揄するように笑ったり奇声を上げたりした。
おまえだって命が助かって喜んでるんだろ?
そうひとりが言った。何のことだかわからなかった。
兄貴が身代わりになってくれたから、ここで酒を飲めてるんだろう?
顔が熱くなると同時にユゥイはその酔っ払いを思い切り殴り飛ばしていた。
そこからは誰が誰を殴っているかもわからない乱闘で、面白半分で参加している者が大半だった。
しばらくして騒ぎを聞きつけた憲兵が現れた頃には酒場は半壊していて、店主がたいそう憤慨していた。
関係者が全員連行されるのとは別に、ユゥイだけは城へ連れて行かれた。
城に着くまではいつの間にか切っていた傷口の血を舐めていた。
憲兵は何かを王と話したあと、ユゥイを地下の牢獄に閉じ込めた。
ユゥイは抵抗したが話を聞いてもらえることはなく、対魔術用の牢獄から叫ぶことしかできなかった。
そして憲兵は言った。
もしファイが戻ってくれば出してやるし、戻ってこず、魔物が攻めてくるようであれば出してやる、と。
そのときようやくユゥイは理解した。人間は判断力を失っている。
そして最大の魔力を使って脱獄できたのがついさっきのことだ。
手間取ったがまだ間に合うはずと希望を抱いて森を進んだ。
やがてたどり着いた神殿の前でユゥイは深呼吸する。
どんな現実があっても大丈夫だ、きっとファイは生きている、なぜなら魔物はまだ人間を襲撃していない。
そっと重い扉を開けて中を窺う。暗い室内は何も見えず、魔物の気配もない。
広いホールを進んで中央の階段を上る。紅い絨毯は真新しく、人に踏まれた形跡はない。
階段の先には大きな椅子があり、その後ろに禍々しいデザインの扉がある。
その扉を抜けると長い廊下になっていて、まだ夕方であるはずなのに真夜中のように暗かった。
窓は全て遮光カーテンが引かれており、ぽつぽつと蝋燭が等間隔に設置されている。
陽光を許さぬ廊下を慎重に進んでいくが、どこにも邪悪な気配はない。
いくつか部屋があるが何の気配もなく無人の空間ばかりだった。
そして幾度か廊下を曲がった先の一番奥に何かの気配を感じた。
その中によく知る、一番大切な気配が混じっていることにユゥイは歓喜した。
ファイだ、あの部屋にファイがいる。
ここまでに一度も魔物と会わなかったことにユゥイは油断していた。
ファイに会いたいと、そのことだけがユゥイの足を進める理由だった。
自分の走っていく足音に、音を消す魔法が解かれていることにも気付かずユゥイはためらいなく奥の扉に手をかけた。
その向こうにはファイがいるのだと、生きているのだと、希望に胸を高鳴らせ大きく手を引いた。
「ファイ……!」
呼びかけは虚しく地に落ちた。
ユゥイが開けた部屋は寝室だった。豪華な天蓋のあるベッドと重厚なカーテン。
まず目に入ったそのベッドの上には金の髪が見えた。
安心は一瞬にして崩れ、絶望的な現実を、夢であれと願うばかりだった。
薄暗く、いくつかあるランプが辺りを照らしているだけの部屋でも見間違うはずのない兄は、見知らぬ男に犯されていた。
もしそのとき兄から悲鳴や助けを求める言葉が聞けたならば救われたかもしれない。
しかしファイはのしかかる大柄な男の背に手を回し、まるで恋人同士のように身体を交えていた。
ユゥイはしばらく立ちすくみその光景をぼんやりと見つめていたが、やがてそれが逃れられない現実であると知ると、歯を食いしばり男に向けて攻撃の魔法を描こうとした。
そこでようやくユゥイは自分の魔法が全て無効化されていることに気付き、その原因を探ろうとした。
「さすがおまえの弟だな。全く同じ手口にひっかかりやがって」
低く悪意を含んだ声は、ファイを犯す男から発せられていた。
あれは魔王だ。魔物を統べる、魔物の王。
「ん……ユゥイ、遅かったねー。もしかして何かあったの?」
ぐるりと首を傾けたファイが紅潮した顔でたずねる。
何かあったのはファイの方だろうと言いたかったが、喉が引きつって声にならなかった。
「そんなとこで立ってないで、こっちおいでよ」
仰向けのファイが体をよじって手招きをする。
それを手伝うようにして男がファイの体を引き上げ向きを変え、あぐらをかいた自分の上にファイを座らせた。
より深く内部に男の性器が刺さり、ファイは少し顔をゆがめた。
しかしすぐにまたユゥイに笑いかける。
「この人ね、黒たんっていうの」
「黒鋼だ。紹介くらい真面目にやれ」
魔王の名前なんてどうでもいい。知りたいのはそんなことじゃない。
ついにユゥイは震えを叱咤しながら足を踏み出した。
離れろ、と声に出すと、怒りがふつふつと湧き上がった。
「ファイから離れろ」
ふたりの正面までやってくると、見たくないものが全部見えてしまう。
ファイの裸なんて見たのはもうずっと昔の幼い頃以来で、成長した身体はひどく淫らに映った。
「離れろっつってもな、こいつが離れねぇんだよ」
ぐっと魔王が腰を突き上げると、ファイは聞いたこともない高い声をあげた。
ユゥイがファイの肩をつかんで引き離そうとするとファイは首をふった。
もう少しだから、と言う。
「もう少しで、イけそうだから、だめ……」
そう言ってユゥイの手を拒み、自らも腰を振って嬌声を上げた。
しだいにふたりの動きは早まりユゥイに見せ付けるように視線をちらちらと送り、やがて魔王の動きが止まると同時にファイはひときわ大きな声を上げて精を吐き出した。
たまらない、と言いたげな切ない声と、魔王がファイを思い切り抱きしめたことに、ユゥイはここにはひとかけらの希望もないことを知った。
間に合わなかった。兄は変わってしまった。変えられてしまった。
まだ整わない息で、ファイはユゥイに笑いかける。
「大丈夫だよ、ユゥイ」
魔王の上から退いた際にファイの足の間から白濁が滴り落ちた。
「おいで」
ベッドから降りたファイがユゥイをなだめるように背中を撫で、抱きしめた。
あまりの暖かさに泣きそうになるが、鼻をつく青臭さには嫌悪感しかなかった。
もうだめなんだよ、とファイは耳に顔を近づけ言った。
どうしたって、もうだめなんだよ、と。
「黒たんはね、魔物に家族を殺されたんだって」
ユゥイに聞こえるだけの声量でささやく。
魔王はふたりだけで話すことを妨げることなく、じっとベッドで待っている。
「でもね、それは人間のせいだったんだって。
黒たんは本当なら生まれた国の国王になる予定の人だったんだけど、それを阻止しようとした誰かが魔物をけしかけたんだって。
魔物は人の言うことなんて聞かないけど、その人は魔物を痛めつけて人間への憎しみを覚えさせて、そのまま黒たんのいる国に魔物を放った。
魔物に人間の区別なんてつかないから、見える範囲のすべての人間を殺しにかかった。
黒たんの国は強い国だったけど、そんな奇襲なんて予想してなかったから、全滅だってさ。
すっごい大きな龍とか虎とか、鯨みたいなのもいたんだって。
太刀打ちできないよね、そんなの」
だから同情したというのか、と口に出しかけたが、やめた。
違うのはわかっていた。
「だから黒たんは人間に復讐することを決めて魔王になったんだって。
ね、ユゥイなら同じことされたとき、恨むなら誰を恨む?
魔物たち? それとも……」
「……人間」
「だよね」
ファイは優しく微笑んでユゥイの頭をなでた。
気持ちがわかってしまうのは嫌だったが、ユゥイも同じような立場にあるのだ。
ファイを生贄に差し出したのは、人間。
たぶん奴らは最初から、ファイが帰ってこなければいいと思っていたのだ。
だから最小限の犠牲ですむようにファイだけを送り出した。
より憎いのは魔王ではなく、あの国の人間たちだ。
「浅はかだったよね、オレたち」
その声があまりにも悲痛だったから、ユゥイは兄を抱きしめ返した。
少しの間、ふたりはそうしていたが、ファイは体を離すとユゥイを引いてベッドへ向かった。
黙って兄弟のやりとりを見ていた魔王は怪訝な顔でファイを見る。
すると突然、ファイがユゥイに飛びついてベッドへふたりで倒れこんだ。
驚いて兄を振り返ると彼はいたずら顔でユゥイの服に手をかけていた。
「ちょっと、ファイ!?」
「もうあの国には帰れないでしょ? だったらオレとここにいようよー」
「だからって何で服脱がすの!?」
「だってー。ここにいるからには黒たんに身体を捧げないと」
「なんで!?」
魔王を見ると、彼は魔王らしい邪悪な顔をしてユゥイを見下げていた。
「家賃だと思って、ね?」
それだけは阻止しようと暴れたが二人がかりで押さえつけられ服を脱がされ、成すすべもなく素肌がさらされていった。
やはり何度試しても魔法は使えない。
救いを求めるようにファイを見ると、あぁ、とうなずいてユゥイの額にキスをした。
「魔法ね。これ、この場所のせいだよ。
この神殿は大昔の人が作った対魔術師用の神殿らしくて、一切魔法が使えないのはそのせい」
黒たんは、だからここを拠点にしたんだよねー、とファイは魔王に抱きつく。
「スパイがいたんだよ。外に変な鳥がいたでしょ?
あいつがオレたちがいた国を探ってたんだって。そんなことにも気付かないなんて、もう人間はダメかもねぇ……」
ファイが魔王にキスをねだり、魔王がそれにこたえる。
貪るような口付けを眼前で見せ付けられて複雑な気分になる。
その隙に逃げ出そうとしても、相変わらず体は魔王に押さえつけられたままだ。
口を離した魔王が今度はユゥイに顔を寄せ、首を探るようにして舐めた。
肉厚な舌の感触から逃れようと顔をそらすが逃げる隙間などなかった。
「黒たん、ユゥイには優しいんだー、ずるーい」
「あ? おまえにもちゃんと優しくしてやってるだろ、最近は」
「最初のころひどかったのにー」
「じゃあ何だよ、こいつにもひどくしろってか?」
「それはだめー」
頭上で交わされる会話があまりにも日常的で穏やかで、安心してしまいそうになることに驚愕した。
たったあれだけの短い期間でなぜ彼らはこんなに親しくなっているのだろう。
「黒たん、優しくしてくれるからね、大丈夫だからね」
ファイがユゥイの髪をなで、落ち着かせるようなしぐさをする。
ここから逃げられないとわかっていても状況を受け入れることはできない。
けれど、ファイにばかり負担をかけさせ自分だけ楽をするのも、気が引ける。
命の危険はないとわかったが、どういう態度を取ればいいのかわからない。
「んな顔すんな。おまえは寝てりゃいい」
魔王がユゥイの体中に手を這わせて温度をなじませていく。
だが男に抱かれた経験などないユゥイにとっては脅威でしかなくて、身はかたくなるばかりだ。
ファイが大丈夫だからね、と歌うように何度も声をかけるが大丈夫なはずがない。
「やっぱり嫌だ……」
魔王を押しのけるがその手は払われる。
ユゥイの体が魔王によって反転させられ、ファイによって膝が立てられ、尻だけを突き出す無様な姿勢をとらされた。
「やだ、いやだ……」
振り返って訴えるも無視され、穴に何か液体を塗りこまれた。
冷たくぬるぬるとした感触に身もだえしていると、奥深くまで指が入れられる。
恐ろしかった。串刺しの刑にされる囚人の気分だった。
指が2本、3本と増え、痛みがやわらいできた頃にようやく解放された。
と思うと同時に魔王の熱い性器が押し当てられた。
「いや、怖いよ、やめて……」
「大丈夫。ユゥイ、ね、オレがついてるから」
「やだ、やだよぉ……ファイ、助けて……」
涙をこぼして求めた助けもファイの笑顔で砕かれ、ユゥイはやわらかなシーツを握り締めた。
逃げたくてしかたがない、でもファイはもっとひどいことをされたのだと思うと逃げることなんてできない。
押し入ってくる肉の塊は恐怖そのもので、これで死なないのはおかしいと感じるほどだった。
まるで拷問だ。殺さない程度の苦痛を与える拷問。
さっきまでファイは悦んでいたけれどユゥイにはこれを楽しむなんて無理な話だ。
何度も怖いと助けてと繰り返したが、魔王は決して労わることをしなかった。
抜き差しされることで水と空気の音が響くのも屈辱的だった。
ファイはユゥイの髪をいじって遊んでいて、魔王は自分の快楽に夢中だ。
やがて魔王がユゥイの中で射精し、ようやく性器が出て行った。
ぽっかりあいた穴はもう戻らないんじゃないかと思うくらいひくついていた。
「どうだった?」
ファイが隣に寝転んで尋ねてくる。
今は顔を見たくない。この程度で済んだのに、絶望した顔なんて、もっとひどい仕打ちを受けた兄には見せられない。
「おまえよか狭かったな」
「黒たんには聞いてませんー」
横になってシーツを抱き寄せる。
腹の中に別の生物がいるような感覚が消えなくて吐き気がした。
呼吸が整うまで目を閉じていたが、ファイのくぐもった声と水音がするので顔を上げると、ファイが魔王の性器を口いっぱいに頬張っていた。
さっきまで自分の中にあった魔王の性器を、ファイが口にしている。
「ファイ!」
痛む身体をこらえてファイの肩をつかんだ。
その拍子にずるりと口から性器が出てきて、つい顔をしかめた。
「なーに? ユゥイも舐めるー?」
「な、舐めないよ……! っていうか、そんなの舐めちゃだめ!」
「そんなのとは失礼だな、おまえも」
魔王がユゥイの頭をつかみ、顔に性器を押し付けてきた。
「やめろ、気持ち悪いッ!」
叫んで口を開けた瞬間に、口内に押し込まれた。
噛み切ってやろうかとも思ったがそんなことをすれば自分だけではなく、ファイの身が危ない。
結局言いなりになるしかないのか。
ぐいぐいと喉奥に押し付けてくる無遠慮さを腹立たしく思いながら、諦めたようにファイの唾液ですっかり濡れた肉棒に舌を絡めた。
「なんだ、積極的だな」
揶揄する魔王の言葉は聞かないことにして、今は従順な態度を示す。
「オレも混ざるー」
楽しそうなファイがユゥイの隣にしゃがみこむと、魔王はユゥイから手を離した。
押さえが無くなったのでいったん口を離し、今度はファイが横から棒をくわえる。
あむあむと味わうようにしているファイの頭を魔王が遊ぶなと言ってはたいた。
「ユゥイはこっち側ね」
促されて、ためらいながらも兄を真似て舌を出す。
変な味のする性器を無心で舐めていると、ふとファイと視線がぶつかった。
にやりと笑ったファイがユゥイの頬に手を当て唇を合わせてきた。
驚いて離れようとしたがファイを拒絶することだけはしたくなかった。
こんなになってもファイはユゥイにとって大事だ家族だから、軽蔑なんて絶対にしないし、拒絶だってしない。
ファイに同調するように舌を絡ませ合っていると、魔王が見下すようにおかしげに笑った。
するとファイが突然、魔王に飛び掛り押し倒した。
「なんだよ」
魔王は笑ったままだ。対してファイは笑っていない。
「ひどいよね、こんなの」
「だったら俺を殺せばいい」
「君を殺さなくたって、もう君は魔物に人間を襲わせる気はないんでしょう」
さっきまで楽しそうに淫らな行為に浸っていたファイが無表情で魔王を見下ろしている。
けれど殺意は感じられない。
それにどうしたって、魔王に勝つ術はない。
「オレはもう帰れない。こんな体で、あの子達に触れることなんか、できない」
「だったらここにいればいい。どこにも行く必要なんかねぇ」
「そのつもりだよ。だから知っていて欲しい。オレは君が憎い。何よりも憎い。
それは一生変わらない。だから、君はオレの憎しみごとオレを手に入れればいい」
魔王に乗り上げていたファイが魔王の性器をつかむと、ゆっくりとその上に腰を下ろす。
悲しいなぁ、とユゥイは思った。もうみんな、憎しみの対象を失っている。
魔王は魔物の統率者となることで、ファイは魔王の過去を知ったことで、ユゥイは人間に裏切られたことで。
理不尽さは誰かがもたらすものではない。だからやりきれない。
「黒さま、愛してるよ……」
言い聞かせるような物言いに魔王は少しだけ複雑そうな表情を見せた。
しかしそれは一瞬のことで、すぐに悪人にふさわしい顔に戻った。
ファイも魔王も、そうあらねばならない自分というものを見つけてしまった。
魔王はファイの腰をつかむと強引に突き上げた。
挑戦的にファイは笑うと激しく腰を動かして快楽を求めた。
ユゥイはぼんやりした思考でファイの後頭部に手を回して、そっとキスをした。
目じりに涙を浮かべたファイが嬉しそうな嬌声を上げた。
勃起したファイの濡れた性器を優しく撫でてゆるゆると上下に扱く。
絶え間なく喘ぎ声を漏らすファイにもっと気持ちよくなって欲しくて、乳首をつまんだり噛んだりした。
そのたびに兄は身をよじってもだえ、熱い息を吐いた。
やがてファイの体が強張り、ひときわ大きな声を断続的に上げながら精液を飛ばした。
白い液はファイと魔王の腹に散って、虚しさをあらわした。
しばらくして魔王もファイの中に射精したようだ。
「オレはもう帰れない、けど、ユゥイは……」
「ううん、ボクもここにいるよ。ファイと一緒に、ずっと」
魔王はファイを手にして憎しみの対象を失った。
だから世界は平和になるだろうし、魔物も魔王がいなくなって喜ぶことだろう。
ファイとユゥイが帰ってこないことを悲しむ者がいたとしても、多くの人間の喜びには負けてしまう。
帰れば、また魔王は人間を恨む。もう帰れない。
ファイが魔王の上から退くと、魔王も起き上がりカーテンの閉まった窓を見た。
「もう少し、明るくしてもいいかもな」
魔王から出ていた邪悪な気配は、少しだけ和らいでいた。
End