Main
困らせたいわけじゃない
どこまで行ってもひまわりばかり。
一面黄色の世界に落ちたと思ったら、今度は黄色の中に取り込まれてしまった。
背の高いひまわりに囲まれて、サクラとファイは歩き続けた。
モコナの口から落ちるときは確かに小狼と黒鋼と一緒だったのに、落ちた先にはふたりだけしかいなかった。
「落ちるときにふたりの姿はちゃんと見えてたから、その辺にいると思うんだよねー」
ファイよりも大きなひまわりの隙間を抜けて小狼と黒鋼とモコナを探すが、こうも視界が悪いと探すに探せない。
「サクラちゃん、どうする? このままふたりとも見つからなかったら」
いたずらに尋ねると、サクラはファイの予想以上に緊張を走らせた。
もしかしたら、それが気にいらなかったのかもしれない。
もしもサクラが笑って冗談に乗ってくれていたら、大人気ないと素直に反省できたのに。
「えっと……困ります……」
うつむいて不安そうにするサクラを自分は励ましてやらなければならない。
それなのに飛び出すのはいじわるな言葉ばかりだ。
「オレとふたりきりは、いや?」
「いやじゃないです」
「じゃあ、このままでもいい?」
「それは……」
幼い瞳が困惑して歩みを止めた。
優しい少女は意地の悪い大人の質問にも誠実に答えようとする。
ひまわり、太陽、地面、雑草、あらゆる自然のにおいが途端に不快になった。
「あはは、困らせてごめんねー。早く小狼君と会いたいよね」
サクラは何か言おうとしたが、それを聞かないためにファイは大声を出した。
「黒わんわーん!! わんこー!! どこー!?」
サクラは大声にびっくりして吐き出しかけた言葉を飲み込んだ。
良かった、とファイは暗色の安心を得た。
そしてすぐに、呼びかけの返事が返ってきた。
「サクラー! ファイー!」
モコナの高い声がする方へ進むと、案外すぐに合流できた。
小狼を見つけて緊張を全て無くしたサクラと、サクラを見つけて顔を綻ばせた小狼を見て、ファイは絶望なんてものはしないまでも、それによく似た感覚が胸に渦巻いたのを感じた。
「てめぇ、人を犬みてぇに呼ぶなっつってんだろうが!」
「……えー。うん、ごめんねー」
怒鳴ってきた黒鋼にあっさり謝ると彼は拍子抜けたような表情をした。
もっと軽くかわすはずだったのに、心というものはなかなか思い通りにいかない。
こんなところ早く移動してしまおう。
モコナを促して次元移動をする際、ぎこちなく手を握り合うサクラと小狼を、ほほえましく思えたのは、褒められるべきことだとファイは思った。