空間的狼少年

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6.気づいてしまったこと


気づいたこと。
からかうと怒る。
褒めると黙る。

気づいたこと。
靴を履くときは左足から。
服を脱ぐときは上から。
ご飯を食べるときはまず汁物から。

気づいてしまったこと。
ぶっきらぼうで無愛想な彼は、ほんとうは誰も嫌ってなんていないこと。
言葉や態度で示せない優しさを、彼はいつも行為で示していること。
そしてその優しさは全ての人に向けられていること。
少なくとも、彼の周りにいる人については、例外なく。

気づいたこと。
力強くて大きな手。
くっきりした二重。
見た目よりもずっとやわらかい髪。
すりむいた傷の消えていない膝。
爪の先まで生命の宿っている足。

気づいたこと。
晴れの日は機嫌が良くて嬉しそう。
曇りの日はごく普通に楽しそう。
雨の日は不機嫌でいらいらしている。
雪の日は無表情で口数が減る。
霧の日は鬱陶しそうに文句を言う。
台風の日は子どもみたいにわくわくしているのが隠しきれないみたい。

気づいてしまったこと。
隠し事が嫌いらしい。
誤魔化されるのが嫌いらしい。
嘘をつかれるのも嫌いらしい。
本音を言わない人が気に入らないらしい。
意味も無く笑っている人が気に入らないらしい。
命があるのに生きようとしない人が気に入らないらしい。
だからオレは嫌われていると思っていたのに、どうやらそうではないらしい。

気づいてしまったこと。
最初は疑惑で満ちていたオレを見る彼の目が、しだいにあたたかなものに変わっていること。

気づいてしまったこと。
最初は警戒心でいっぱいだったオレの彼への印象が、今では安らかなものに変わっていること。

End