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こんな日はチョコレートで乾杯 お天気は快晴。暑くも寒くもなく、そよ風も気持ちいい。最高の行楽日和。 人間も妖怪も外へ出て光を浴びたくなるこんな日に、湖のほとりに集まった4人の妖怪たちは、なにやらひそひそと秘密の会議をしていた。 いつもは上機嫌で遊びやいたずらを考える4人なのに、今日はなぜかまじめな顔で話し合っている。 「だから、あんな魔理沙は絶対おかしい! 偽者だよ!」 腕を組んで深刻そうに言うのはチルノ。 「偽者なんているわけないわ。あれはちょっとおかしいだけの魔理沙」 くだらないと一蹴するのはミスティア。 「いや、おかしいのはアリスの方だよ。あの笑顔、ありえない」 ぶるっと身震いするのはリグル。 「つまりどっちも変!」 あはは、と笑うのはルーミア。 岩陰で隠れるように円になってあれやこれや好き勝手に推論を飛ばしている。 彼女らの話題の中心にいるのは、彼女たちから少し離れたところで座って談笑しているアリスと魔理沙。 魔法使いの二人がそれなりに仲がいいのはみんな知っているし、ミスティアとリグルは永い夜、あの二人組みに痛めつけられたこともあった。 けれどその仲の良さは同じ魔法使いだからという仲間意識によるものであって、信頼しあう友人関係のようには見えなかった。 チルノやルーミアにとって友人とは一緒に遊んで一緒に笑うもので、ミスティアやリグルにとって友人とは共に高め合うものだと認識していた。 アリスと魔理沙を友人だと断言するにはいろいろなものが欠落している。 それなのに今日はおかしい。 「魔理沙があんなに照れた顔するなんて」 「アリスがあんなに嬉しそうな顔をするなんて」 ありえない、と顔を見合わせるミスティアとリグルをルーミアはおかしがり、チルノがだからあれは本物じゃないと主張する。 するとリグルがそんな気がしてきたと納得し、ルーミアが確かめて来ようと提案、じゃんけんでルーミアが確かめることになった。 「よし、偽者だったら食べる」 意気込んだルーミアを残った3人が応援し、少しわくわくしながら結末を見守った。 アリスと魔理沙は隣り合って座っていて、アリスが何か言うたびに魔理沙はうつむき加減ではにかむ。 そんな魔理沙をアリスは愛おしそうに眺め、魔理沙の髪をなでたり顔を寄せたりする。 これは何をしているんだろうとルーミアは不思議そうに二人に近寄った。 「ねえ、何してるの?」 ルーミアが声をかけると同時に魔理沙の肩がびくりと跳ね上がり、とっさにアリスと距離をとった。 そのせいなのかはルーミアにはわからなかったけれどアリスは小さく舌打ちをした。 「あらルーミア、奇遇ね」 肖像画みたいな笑顔で挨拶するアリスにルーミアは違和感を感じた。 得体の知れない怪物を前にしているのに微塵も恐怖を感じないような、違和感。 「アリス?」 首をかしげてたずねると、アリスはそうよと答える。 隣で雑草をいじっている魔理沙を指差して「魔理沙?」と聞くとアリスがそうよと答える。 そっか、本物なんだ。 安心したルーミアは、うんうんとうなずいて向こうの岩陰で様子を伺っている3人のもとへ帰り本物だったと報告すると4人は神妙な顔で会議を再開した。 本物ならいっそうおかしいよとリグルが気味悪がり、でも私たちそもそもあの人たちのことあんまり知らないしとミスティアが視線を泳がせ、 あいつらはいったい何してるのとチルノが怒り出し、じゃあ聞きに行こうとルーミアが提案、今度はミスティアが行くことになった。 「行ってくる、けど気が乗らないなぁ。嫌な予感がするわ」 遠い目をするミスティアを3人が元気付け、どきどきしながら岩陰に隠れた。 アリスと魔理沙は二人でサンドウィッチを食べている。 バスケットに入ったサンドウィッチはきれいな三角形、そのほかにもりんごや桃、花びらなんかも入っている。 聞こえる会話はおいしいとかまた作ってとか好意的なものばかりで、終わらない夜に戦ったあの魔法使いたちの言葉とは思えなかった。 状況が状況だったからかもしれないけれど、あの夜はもっと殺伐としていたはずなのに。 「それ、おいしそうね。ピクニックに来たの?」 機嫌を損ねてはいけないと考慮して話しかけたのだが、一瞬アリスは露骨に不快そうに口をゆがめた。 しかしミスティアがしまったと思う前にその拒絶は懐に隠された。 「今度はミスティアね。ピクニックじゃないのよ」 ガラスを隔てたような笑顔を向けられミスティアはとっさに目を背けた。 視界の端で魔理沙がリスみたいにサンドウィッチをかじっている。 「じゃあなにしてるの?」 緊張しながらもミスティアがたずねると、アリスは誇らしそうに 「デートよ」 と言った。 その隣では髪で顔を隠した魔理沙が小刻みに震えている。 そんな魔理沙をみてアリスはさらに誇らしそうにデート、と言う。 そっか、デートか。デートって何だっけ。リグルに聞けばいいか。 疑問を抱えたまま岩陰で見守る3人のもとへ帰りデートだったと報告すると4人は怪訝な顔で会議を再開した。 デートって何だっけとミスティアが質問し、男女が仲を深めるためにお出かけすることだとリグルが回答、あいつら女同士じゃんとチルノが指摘し、 じゃあ教えてあげようとルーミアが提案して次はリグルが行くことになった。 「行くけどさ、別に教える必要ないよね」 腑に落ちない様子のリグルを3人がなだめ、きらきらした瞳で岩陰に隠れた。 教えたからって褒めてもらえるとは思えないのにそんな期待されても困るなぁとリグルが重い足取りでアリスと魔理沙のところへ行くと、 2人は紅茶を飲んでいるところだった。 紅茶の作り方や飲み方を話し合っているようで、次はこんなのが飲みたいとかどこで飲みたいとか、デートは今日だけではないらしい。 深呼吸して意を決めリグルが 「えーっと、デートしてるんだよね?」 と話しかけるとアリスは無表情で振り返りリグルを見つめた。 これはまずいかもしれない、と身構えたリグルだったが魔理沙がアリスの袖を引くと、打って変わってアリスは人当たりの良い笑顔でそうよと答えたのでひとまず安堵。 「あのさ、デートって男女でするものじゃ……」 「なぁに? 私と魔理沙がデートしちゃいけないの?」 言い終わらないうちにアリスがしゃべりだした。 「さっきからどうして邪魔しにくるのかしら? 私は今ね、かわいい魔理沙とすごく幸せな時間を過ごしてるの。それを邪魔して楽しんでるの?」 「アリス、やめろって」 「魔理沙は恥ずかしがりやだから外で会いたがらないの。せっかくこうして連れ出したのに、私と魔理沙の時間を奪わないでくれる? あ、もちろん家で魔理沙と過ごすのも楽しいんだけどね、外だと人の目を気にして始終頬を染めてすごくかわいくて」 「それは今関係ない!」 「あんまり私を怒らせないでね。今の私は本当に容赦しないわよ」 今にもスペルカード宣言しそうな勢いのアリスなので急いで岩陰の3人のもとへ逃げ帰って怒らせたと報告すると4人はあわてて会議を再開した。 怒らせてどうするのとミスティアが涙目になり、何で怒るんだよとリグルが不満をこぼし、仕返しされたらやばいじゃんとチルノがあせり、 じゃあ謝りに行こうとルーミアが提案し、最後はみんなで行くことになった。 「怒られたばっかりなのに大丈夫かな」 「だから謝りに行くんでしょ」 そわそわしながら岩陰で怖気づいていた4人だったが、チルノが先頭に立って歩き出したので3人が後に続いた。 紅茶を飲み終えたアリスは魔理沙にくっついて頬や額に口をつけている。 魔理沙は情けない声を上げて嫌がっているようだけど本気で拒否する気はないようだ。 さすがにここで声をかけるのはまずいとリグルが引き返そうと言い出そうとしたときチルノがアリスの肩をたたいてしまった。 「さっきはごめんなさい! 何で怒ったの?」 言うと同時に草むらから人形が飛び出し、4人を拘束した。 「もう! 話の通じない子たちね!」 悲鳴を上げて逃げ出そうとする4人に人形が針を突きつける。 魔理沙がアリスを落ち着かせようとするが激昂したアリスは聞く耳を持たず、魔理沙まで押し倒して人形に両手足を拘束させて首に果物ナイフを当てて脅す始末。 「アリス!? 何で私まで!」 「うるさいわね、魔理沙は黙ってなさい」 アリスはほとんど泣きかけているいたずら妖怪たちに向き直り、座りなさいと指示する。 おとなしく正座する4人の前でアリスは両手を腰に当てて仁王立ち。 「どうして怒ったのか、聞いたわね。そんなの邪魔されたからに決まってるでしょ!」 「何を? あたいたちが何を邪魔したの?」 「デートしてるって言ったでしょう、わからないの?」 「何でデートを邪魔されると怒るの?」 もう危機感をなくしてしまったチルノをはらはら見守るしかない3人は黙って下を向き続けた。 「そうね、あんたにはわからないわね。いいわ、教えてあげるから聞きなさい。デート中の魔理沙がいかにかわいいかということをね!」 「もういいから! アリス、もうやめろ!」 魔理沙の叫びは誰にも届くことはなくむなしく湖に吸い込まれた。 早く帰りたくて仕方がないミスティアとリグルとルーミアだが、チルノだけはアリスの話を理解していないくせに熱心に聴いている。 しかも、そうか、すごい! と相槌をいれるものだからアリスも調子に乗って魔理沙自慢は終わらない。 「何より、普段とのギャップがかわいいの! いつもは一人で何でもできるみたいな顔してるのにほんとは一人でいるのが寂しいの。 だから私が家を訪ねて行けばすごく喜ぶのよ。でも家が汚いものだから、そんなところ見せたくなくて家に入れてくれないこともあるの。 私はそんなの気にしないのに、魔理沙は私にだらしないところを見られたくないって思うのね! ほかの人にはだらしなく接してるのに、私には見られたくないんですって!」 興奮気味に頬を染めてうっとりと喋るアリスの話はもはやチルノしか聞いていない。 ミスティアは頭の中で音楽を流して楽しんでいて、リグルは地面を這う小さな虫と遊んでいて、ルーミアはこっくりこっくり舟をこいでいる。 仰向けで拘束されたままの魔理沙は涙目でぼんやりしている。 「だからね、私は魔理沙をずっと見てたいのに邪魔されたから怒ったの、わかるわね? もしまた同じことしたら今度こそ命はないと思いなさいよ」 はーい、と元気よく返事するチルノに満足したのか、アリスはうなずいてバスケットからアルミに包んだチョコレートを取り出した。 ビニール袋に氷を入れてハンカチを敷いた上に置いてあったので溶けてはいない。 「いい子ね、じゃあこれ食べなさい。ほら、あなたたちも」 適当に割ったチョコレートを4人に渡し、魔理沙には口に押し込んだ。 「わー、チョコレートだ!」 喜ぶチルノを見てアリスは人形を呼び戻して4人を解放した。ただし魔理沙はそのまま。 「ま、こんな日は私も怒りたくないわ。あなたたちも悪気があったわけじゃないのよね、私と魔理沙があんまりにも仲良くしてるから不思議に思ったのよね。 そうね、不思議に思われるくらい仲が良かったのよね」 「あの……私も人形どけて欲しいんだけど……」 「さぁ乾杯しましょう! それでもう疑問を持たなくていいように私と魔理沙がどんなに仲が良いのか語りつくしてあげるわ!」 「アリス! アリスさん! ほんとにもうお願いします! ちょっと、ほんとに、アリス! この変態人形師!」 チョコレートの塊を口に押し込まれた魔理沙を気の毒そうに思う妖怪たちだったが、これから始まる長い長いアリスの魔理沙自慢を聞かされる自分たちのほうが かわいそうだとため息をついた。 END
可愛がってる…のか?