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Blind Man’s Buff
私の妹は、ひとりでよくどこかへ出かけていく。
誰よりも近しいはずの私にも気づかれないように、こっそりと。
そして同じようにこっそり帰ってきて黙って自室にこもってしまう。
昔から妹は好奇心が旺盛で、姉である私より頼もしくあるときが多かった。
幼い頃、ふたりで見知らぬ森に迷い込んだときも、大きな鳥の声や風の音におびえて泣き出した私の手を握って妹は、
大丈夫と笑って私を外へ連れ出してくれた。
姉として今でも恥ずかしくなる思い出だけれど、あのとき妹だけが私を救い出してくれるヒーローだった。
それから私は妹が喜んでくれることばかりを考えていた。
おいしいお菓子を作ったら喜んでくれるかしら、それともかわいいお人形を作ったら喜んでくれるかしら。
そう考えるだけでも楽しかったし、そう考えている私の心を読んだ妹がにこにこ笑って私に抱きついてくれるのも嬉しかった。
ふたりだけがお互いを分かり合えるのだと思っていた。
けれどそう思っていたのは私だけで、妹は私に何の相談もせずひとりで思い悩んだ末、第三の目を閉ざしてしまった。
私は深く後悔し、うぬぼれていたことを恥じた。
今日もひとりで外へ出て行く妹に、どこへ行くのと尋ねると
「お姉ちゃんの知らないところ」
と、こちらを見もせず帽子を手にとって走って行ってしまった。
昔は、仲の良い姉妹ねとみんなに羨まれていたのに、今ではまともに口もきかない互いに無関心な姉妹だ。
私は妹がどこで何をしているか知らないし、妹もまた私が一日をどのように過ごしているかを知らないのだ。
私はとても悲しかったけれど、どうすることもできない。
本当は私も妹と一緒に出かけてみたいのに。
妹がいったい何を見て何を感じているのか、その感動を共有したいのに。
帰ってきた妹に、今日はどこへ行ってきたのと尋ねると
「お姉ちゃんには想像もつかないくらい、とってもきれいなところ」
抑揚のない声で目を伏せて言うと、急いで自室に入ってしまった。
いつか、妹が楽しそうに笑って地上の景色の話をしてくれると私は信じている。
翌日、妹が出かける準備をしていたので、どこへ行くのと尋ねた。
すると、
「お姉ちゃんの知らない、とってもきれいで、楽しくて、いろんな色がたくさんあるところで…お姉ちゃんも見たことないくらい
すごいところで…だから…だから…」
ぎゅう、と自分の服のすそを強く握ると、妹は泣きそうな声を飲み込んで駆けて行った。
私は呆然と立ち尽くした。
どうして妹はあんなに辛そうにしているのか、彼女の心を読めない私にはまったく分からなかった。
目を閉ざしてなお、妹はいったい何に苦しめられているのか。
私はそのことばかりを考えて、歩くことさえままならなかった
END
「だからお姉ちゃんも一緒においでよ」が言えない