空間的狼少年

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君はずいぶん甘いのね


巨大なビルに囲まれた都市にも自然はある。
上を向けば何億年の歴史が人間を見下ろしていて、それは時折恐怖にも変わる。
隣に立つネウロはそんな光景には興味がないらしく、持て余すような呼吸をしている。
橋の上から汚れた川を見下ろす俺に沈みかけた太陽の焼けた光がのしかかる。
きっと今、彼の金の髪は何よりも美しいに違いない。
距離がゼロでも届かない聖像に成り得るのだろう。
人間たちにもてはやされ、無責任な信仰を浴びるのだろう。

「こうしていると、僕も初めからここにいたような気になります」

呟いた彼の言葉は大きな隔たりを超えて俺の耳に入る。
肯定も否定もせず彼を引き寄せ、じっと目を見つめる。
これは罠を仕掛けて餌を待つ捕食者の目だ。

「あなたとずっとここに居られたらと、思ってしまうんです」

その目を手で覆い、耳元に口を近づける。

「いつになったらあんたは本心をさらすんだ?」

覆った手の下で彼の目がぎょろりと動くのが分かった。
螺旋階段のような目はおそらく奈落へと続いている。
その奥に、人間にはとうてい手の届かない地獄に、彼の心はあるのだろう。

「いつまで待てばいい? 俺はどうすれば、あんたの声を聞くことができる?」

彼の口角が上がり、尖った歯が見えた。
そうやって時々化けの皮を脱ぐものだからどうしても躍起になってしまう。
必死になる俺を見て彼は笑っているのだというのに。

「僕はこうやっていつも、あなたにだけ素顔をさらしているじゃありませんか」

けれど言葉は薄情で、走りかけた俺を突き放す。
俺は手を離して橋の手すりにもたれる。

「そんなこと俺が信じると思ったの」

「えぇ、信じると思ったので言いました」

楽しそうな彼の顔はきっと本物なのだろう。
彼はいつも言葉をつくり出しているから。
   
End
ネウロお題・嘘にまみれた甘い言葉に喜ぶほど君を信じちゃいないよ
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