空間的狼少年

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※捏造	

夏休みの宿題

小学生のころ、夏休みになると毎年、リビングのテーブルで向かい合って、妹と宿題をしていた。
自分の部屋だとどうせやらないんだから、と母親に無理やりやらされていた。
午前中にノルマを達成すれば午後は好きなことをしてもいい。
しかしなかなか、これがうまくいかない。

「もーわかんないー! やだ、やりたくない!」

妹はすぐに愚痴を言って宿題を放棄しようとした。
決して頭が悪いわけではないが、集中力がもたないのだ。
それに対して俺の集中力は教師に心配されるほど高かった。
けれど目の前でこうも騒がれては集中できず、ある程度我慢したところで、うるさいと言う。
すると妹はすぐに八つ当たりしてくるのだ。

「ばか!」

「ばかって言うほうがばかだ」

「でもあにきのほうが、ばか!」

しばしにらみ合い、俺の国語の問題集に妹の手が伸びる。
6Bの鉛筆がぐしゃぐしゃと思いっきり線を引き、慌てて妹の手をはたき落とす。

「なにすんだ」

「それ、その線、文字! あにきのばかって書いたの!」

なぜか誇らしげに妹が落書きを指差す。
腹が立つが冷静に消しゴムで落書きを消す。
が、6Bの鉛筆は消えにくく、跡がきっかり残ってしまっている。
我慢できずお返しに妹の社会の問題集に同じように線をぐるぐると書いてやった。
あー! と声を上げて妹は問題集を取り上げた。

「それ、ちびって書いた」

「ばか! あほ! はなげ!」

立ち上がった妹が筆箱を投げつけてくる。
ぎりぎりで避けて、今度は俺が消しゴムを投げつけ、妹の額にすこんと音を立てて命中する。
だいたいその辺で母親がリビングに入ってきて、俺と妹の頭をはたいて、静かにやりなさいと怒鳴るのだった。
そもそも悪いのは妹なのに、といつもいつも憎たらしく思っていた。
妹との宿題の時間は好きじゃなかった。
だけど、どうしてか、もう嫌だと言った事は俺も妹も、一度もなかった。

End