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白の共有 連日続く、うだるような暑さ。 長い髪も黒い服もうっとうしくて嫌になって、太陽が昇り始める前に博麗神社に文字通り飛び込んだ。 家にいたら一日中ベッドの上で暑さに苛々しながら過ごしてしまいそうだったから。 風鈴の揺れる縁側で、霊夢は寝転がっていた。 自分と同じうっとうしそうな霊夢の顔に、暑いと言い放って髪を二つに結ってもらう。 切ればいいのにとか自分で結いなさいとか色々文句を垂れるのを全部聞き流して、ついでに涼しそうな服も要求する。 「あんたってほんと、図々しさだけが取り柄ね」 諦めたように笑って、たんすの匂いのする真っ白のシャツと膝丈のズボンを出してくれた。 長いこと放置されていた服なのだろう、折り目がしっかり付いていた。 それから霊夢も簡易な服に着替えて、二人してだらしなく畳の上に転がった。 外からはうるさい蝉の鳴き声と、たまに風鈴の高音が入ってくる。 風通しはあまり良くなくて体中べとべとする。 横を向くと、少し甘い汗のにおいと熱気を吸った畳のにおい。 額を汗が伝うけど、拭う気にもなれない。 でも前髪が張り付くのは気持ち悪くて、ごろんと天井を向く。 すると眼前に霊夢の顔があった。 「うわ! 何だよ!?」 驚いて仰向けのまま後ずさろうとすると、霊夢が一笑してぎゅうと抱きついてきた。 やめろあついーれいむはなれろー。 もがいて散々抵抗しても霊夢は離れてくれず、むしろ更に密着する。 お互いのべたべたした肌が触れ合って不快なはずなのに、霊夢はまだ笑ってる。 「暑いわね、魔理沙」 「お前がくっついてるせいでな!」 霊夢から、私と同じにおいがした。 だんだん抵抗する気力がなくなって降参すると、霊夢は私の髪を指に絡めた。 「もう汗でべとべとね。後で一緒にお風呂に入りましょうか」 「え、一緒に?」 「そう。一緒に入って、一緒に冷たいお酒を飲んで、一緒にご飯を食べて、一緒に眠るのよ」 目を閉じた霊夢が私の頬を撫でる。 木の隙間をくぐり抜けた緑の風が霊夢の黒い髪を払う。 生ぬるい風はたぶん世界中を循環している。 暑さで思考が歪んでしまったのだろうか、平凡な夢を見ている気分になった。 「じゃあ、お昼はお茶漬けが食べたい」 投げ出されていた両手を霊夢の首に回す。 熱を持った人間の肌が触れ合い、霊夢は嬉しそうに笑った。 「で、夜はそうめん食べに行こう」 「いいわね。私も食べたかったところよ」 例え霊夢の同意が嘘だとしても、私は一向に構わない。 抱き合ったままでいれば誰にも見抜けない。 地面が焼かれる風景を私たちは見ない。 ずっとこの手を離さずにいれば、離したとしても、どうせ最後の瞬間は一緒にいるのだろう。 「あつい、な」 このまま一緒に溶けてしまえればいいのに。 End お題・どうせなら一緒に、なあ、この手を取ってくれるんだろう 配布元→ヨルグのために