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魔界にて 4 そこに家を、と言ってネウロが指差したのは毒々しいピンク色の湖のほとり。 簡単に家を建てるなんて言うけれど、何の知識も無い素人が家なんて建てられるのだろうか。 下手なものを作れば崩れるだろうし、けれどこのままここにいればまたバケモノに襲われるだろう。 どうするのだろうといろいろ予想していると 「さて、少し待っていてください。すぐに建てさせますから」 ネウロが得意げに笑って湖のそばへ向かった。 そして湖に手を突っ込みピンクの水をかき回す。 何をしているのかと覗き込むと、突然水の中から魚のようなものが飛び出した。 「釣れました」 ぎょろりと丸い目の、長い手足の生えた魚だった。 ネウロが魚を捕まえ早口で聞き取れない言葉で魚に何かを命令している。 魚なので表情は変わらないはずだが、怯えたような目をしている気がした。 うろこのある手足をばたつかせて魚が地面に降りると、とたんに湖に飛び込んで姿を消した。 「……なんなの?」 「まぁ、もうすぐできますから散歩でもしましょうか」 ネウロはにこにこ笑っている。 5 意思を持ったような花がたくさん咲いている。 どれも毒のあることを主張する色で、花ってもっと可愛らしいものじゃなかったっけ?と自分の記憶を疑うくらいだった。 「先ほども言いましたが、ここは魔界です」 隣を歩くネウロがぽつりと話し始めた。 「6との戦いで僕は魔力を使い果たしました。だから休養のために帰ってきました」 「6は……」 「僕が、殺しました」 「そっか。あんたならやってくれると信じてたよ」 そう言うとネウロは立ち止まって驚いた顔で俺を見た。 怒っているのか悲しんでいるのか単に驚いているだけなのかは判断がつかなかった。 「言いたいことがあるなら言っていい。悪いのは……」 「いえ、違います。ただもう二度と会うことなんてないと思っていたので」 あなたに対して自分がどのような状態にあるのかわかりません、とネウロはうつむき表情を無くして言った。 「俺もわからない。けど、もう一度会えたのは嬉しい、と思う、たぶん」 そう言うとネウロはぼんやりと地面を見つめ、ゆっくり目を閉じた。 6 適当にネウロについて歩き回って湖に戻ってくると、さっきと風景が違っていた。 手足の生えた魚がずらりと並んでいて、その後ろにログハウスのような建物があった。 「ふむ、合格としようか」 ネウロが魚達に告げると魚達は抱き合って喜んだ。 「この魚が建てたの?」 「はい。でも笹塚刑事の趣味に合うかどうか……」 わざとらしい言葉に魚達があせり出した。 ネウロは、そんなに恐れられる魔人なのだろうか。 魚達は相談をするようにギィギィと鳴いて円陣を組むと、いっせいに湖に逃げ込んで消えてしまった。 「あんたが余計なこと言うから逃げたよ」 舌打ちするネウロに呆れつつそれなりに立派な家を眺めてみる。 おかしなところはなく、地上にあるログハウスと同じだ。 「ここに住むのか?」 扉を開ける勇気はなく、まじまじと観察すると窓から部屋の中が見えた。 中にはバケモノがいる様子もなく人間が住むための空間が設けられている。 ソファやテーブルなどのデザインは、あくまでイメージだが、欧米風に思えた。 「地上と同じ暮らしはできませんが、いかがですか?」 「え、あぁ、その暮らしの方が問題なんだけど……風呂とか、トイレとか」 「それでしたら、ほら、ここに湖が」 「えっ?」 「え?」 人が住むには改装が必要なようだ。 続く こんな感じでゆるゆる続いていきます