空間的狼少年

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口付けの盛り合わせ


赤らんだ顔に


じっとネウロを正面から見つめてたら、だんだん彼の頬に赤みがさしてきた。
こんな表情もするんだなぁと珍しく思ってそのまま見続けていると彼は居心地が悪そうに目線を泳がせる。
それでも視線を動かさずにいたらとうとう怒られた。

「何ですか、そんなに見ないでください」

とげとげした声なのに悪意も敵意もなくて、やっぱりただの照れ隠し。

「うん、ごめん」

言うと同時に彼の赤いままの顔に口をつけたら、さらに怒られた。



そっぽ向いた頬に


車の助手席で、彼は外を眺めている。
ずっとこの街で暮らす俺からしてみれば何の面白みもない風景にしか見えないが、どこか遠いところから来たらしい
彼の目はきらきらと輝いている。
どこを見ても同じ顔ばかり並んでいるように思えるが、彼は期待に満ちた瞳で外の人間に興味を示している。
いったいどんな人間に気を惹かれているのか気になるが、俺は運転に従事しなければならない。
ちらちらと横目で隣を見ても、見えるのは彼の揺れる金の髪飾りばかり。
信号で止まったときにだけ、窓に今にも飛び出して行きそうな彼の顔が映っているのが分かる。
何を見てるのと聞いても曖昧な返事しか返ってこないし、目的地はまだ先だ。
あんまりな扱いに少し苛立ったので、次の信号で止まったときは彼の頬に噛み付いてやろうと思った。



ひざまずいて誓いの


「なぁ、俺が他の女と寝るわけないだろ。何でそんなに怒ってるの」

「怒ってなんかいません。でも昨日、あなた女性とホテルに……」

「あれは捜査のために行ったんだ。あとから石垣とも合流したし、他の奴らもいたよ」

「けど、きれいな人でしたし、それに……」

「俺はあんた以外の人を好きになるつもりはないよ」

「でも、でも。あの人はあなたに好意があるかもしれない」

「だとしても、俺はなびかない」

「でも……」

「そんなに不安?」

「不安? よく分かりませんが、昨日の光景を見てから、僕はどうにかなってしまったみたいです」

「そっか、嫉妬してくれたんだな、ありがとう。でも心配しなくていいよ」

「…………」

「手、出して」

「手?」

「ほら、騎士みたいだろ。誓いのキス」

「あなたもキザなことしますね……」



視線を避けて額に


「いつも俺からしてばかりだから、たまにはあんたからもしてよ」

そう言うと露骨に嫌な顔をされた。
そんなに嫌かと少しへこんだけど、ここで引き下がれば一生してくれないだろう。
何とか言いくるめて一回だけという条件付で勝ち取った。
が、俺が油断したすきに彼は額に口をつけて終わりですと言った。
それはないだろうと不満を告げると、じゃあもう二度としませんと脅されたから口を閉じる。
でも一回だけと言ってたのに次もあるみたいだから、それに期待することにした。



はなの頭にお守りの


朝、起きると隣で寝ていたはずの笹塚はもう出勤の支度を整えていた。
気だるそうに鞄に必要なものを詰め込んで、手帳を見てため息をついて、煙草を吸う。
こんな男と体を繋げているなんて、本当に信じられない。
我輩は丸裸だったので笹塚の見ていない間に服を再生させた。

「笹塚刑事、僕も帰ります」

「あ、そう? じゃあ外まで一緒に行こう」

しばらく柔らかいベッドの中でまどろんでいたかったが我輩も暇ではない。
性欲より食欲の方が大事なのだ。
しかしいつも天井で眠っていた我輩にとって、ベッドの柔らかさとは革命的であった。

「じゃ、次いつ会えるか分かんないけど……」

「案外、今日の事件現場で会うかもしれませんね!」

「自分で依頼人見つけろよ……」

あんなに心地の良い寝場所を提供してくれたのだから、感謝しなければならない。
そう思って以前テレビで見たように玄関の鍵を締めた笹塚の鼻にかぷりと噛み付いた。

「お守りです! お仕事頑張って下さいね!」

呆然として動かない笹塚を置いて、我輩は事務所へと帰った。



ふいうちで


笹塚が本を読んでいる様子を観察して、ふと奴が顔を上げた瞬間に口付けをした。
なんだかよく分からないという表情のまましばらく静止して、笹塚はゆっくり顔を下げて読書を再開した。
数分後、ようやく奴は「えっ?」と声を出した。



無理やりだけど


抵抗するネウロをソファに押さえつけて、無理やりキスをした。
頑なに閉じられた口を強引に開いて舌を入れて、涙目になるネウロにも構わず好き勝手口内を舐めていたら、
がりっと音がして舌に痛みが走った。

「痛い」

噛まれて血の出る舌を見せて言うと、ネウロは俺を軽蔑するような視線で睨んだ。
しかし俺の下で髪を散らし喘ぐネウロを俺は何度も見てきたのだ。
だから俺はネウロの耳に顔を寄せて囁いた。

「無理やりされる方が好きなくせに」

びくりとネウロは体を震わせ、そして愉しそうに笑った。

「あなたこそ、無理やりするのが好きなくせに」

End
お題・口付けの盛り合わせ
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