空間的狼少年

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クーラー

すでに外は猛暑だ。太陽がアスファルトを焦がす音が聞こえてきそうなほど日差しが強い。
そして室内はもっと暑い。直射日光は当たらないが、たぶん温度は外より高い。
窓も扉も締め切った事務所の部屋でソファに座る笹塚はハンカチで汗を拭いた。
その様子を、みどりの瞳が楽しそうに見つめている。

「……なんでクーラーつけねぇの?」

「先生はクーラーがお嫌いなそうですよ」

「弥子ちゃんは今いないだろ」

にこにこと事務所の主であるネウロが笑う。
きっちりとスーツを着込んでいるくせに汗一つかいていない、涼しげな顔で。
いい加減、めまいがする。
熱中症は室内で起こる症状だ、そろそろ限界かもしれない。

「暑いですか?」

「見てわかんない?」

「よくわかります。暑そうですね」

だったら冷たい麦茶でも出して欲しいものだ、沸騰するほどに熱い紅茶ではなくて。
さらに言うと、おひとつどうぞと言われて唐辛子を出してくれたが、これは客人に出すものではない。
もっと言えば、ブランド物だと言ってマフラーを首に巻いてくれたが、悪意しか感じられない。

「……俺さ、なんかあんたの機嫌損なわせるようなこと、した?」

「とんでもない! どうしてそのようなことを言うのです!」

「だったら……」

この嫌がらせをやめろ、と言おうとしたところで、ネウロが笹塚の正面にまわり、にっこり笑って抱きついた。
うっとうしい、と文句を訴える間もなくシャツの中に手を入れられた。
ぎょっとして身を引こうとしたが、ソファに座っていては引くにも引けない。
そしてすぐに、背中に違和感を感じた。

「冬の残り物ですが、あなたにプレゼントしてあげますね」

ネウロが離れたので、背中に手を入れて確認する。
あ、これは。

「…………楽しいか?」

「とっても!」

貼るカイロを背中に引っ付けられていた。
いたるところが暑い。

End
だいぶ昔に、これの冬バージョンを書いた記憶がある(データはない)