空間的狼少年

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声、ききたくて


朝起きたら、半分眠ってる頭でアンタは今何をしているのか考えてたんだ。
多分俺より遅く寝て、俺より早く起きているんだろう。
にも関わらず元気溌溂として今日も弥子ちゃんを振り回すのだろう。
そんなこと考え出したら、止まらなくなってた。
また新しい事件が起きたら彼はやってくるだろう。
だったら早く事件が起きて欲しい。
そんな不謹慎すぎる願いまで生まれてしまうほど俺はアンタに寄生されているんだ。
ゆっくり体を起こして、体の上でしな垂れている毛布を跳ね除ける。
喉のきらりと光る痛みに気付き、水分を求める。
未だに覚醒しない脳内では、まだまだ夜の羽音が木霊している。
足をつけた床は予想外に冷たくて、硬さだけが想定内だった。
冷蔵庫を開けると冷気が俺を総攻撃してきたことにちょっと凹んだフリでもしてみせる。
そんな意味のない行動をとるのも、頭が深夜2時で止まっているからだろう。
開け放たれた冷蔵庫の中をぐるりと見回す。
一昨日コンビニで買ったミネラルウォーターはまだ飲めるだろうか。
 あれを買ったのは確か仕事帰りだから、一昨日といっても開けてからはまだ1日程度しか経っていない。
一瞬ためらったが、これを飲んで死ぬこともないだろう。
問題ない。
冷えた水分を一気に体内に取り込む。
ふと何気なく窓の外を見ると、空が溶けていた。
そういえば昨日の天気予報で、今日は雨だといっていた気がする。
さらに霖雨になりそうだとも。
冷蔵庫の唸りで構成された部屋の中にぱたぱたと侵食する雨音。
規則的で無機的でそれでいて風流なんかがあって、だから、ってわけでもないけど。
会いに行こうって、決めたんだ。
でもその口実は、ない。
様子を見に来たっていう理由はそろそろ使えなくなる頃だろうから。
なら口実なんて使わなくたっていいじゃないか。
 

「あぁ、笹塚刑事、どうされたのですか?何か事件でも…?」
 
「いや、ちょっとアンタの声が、聞きたくて」
 

End
お題・声、ききたくて
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