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きっと、すぐに 魔理沙が泣いている。 僕を好きだと言った彼女を無慈悲に突き放した結果だ。 責任はすべて僕にあると言っていいくらい僕はひどいことをしてきた。 それなのに僕は傍観者に逃げて、泣いてる魔理沙に優しい言葉の一つもかけてやれない。 僕は損得で物事を判断するが、何もかもを金銭に繋げるほど単純ではない。 僕と彼女の進む最善の方法をとったまでだ。 魔理沙は幼い子供のように泣きじゃくってずっと一緒にいたいと訴える。 けれどどんな道を辿っても僕と彼女では悲しい未来しか待っていない。 それでもいいと魔理沙は言うが、結局、僕が彼女の苦しむ姿を見たくないだけなのだ。 どこか僕の目の届かないところで泣いて、僕の前では笑っていてくれればいい。 知らない誰かが、魔理沙を幸せにしてくれればいい。 都合の良い僕はいちばん大切な人にさえそんな遠くからの願いしか持てない。 埃と涙の匂いが混ざり合って気分が悪くなって、僕は早々に世界を閉ざそうとしていた 「僕は目の前で女の子が泣いていても、慰めてもやれない最低の男だよ」 ぐしゃぐしゃになった顔を拭うこともせず魔理沙は泣き続ける。 思い通りにならないことよりも、僕に拒絶されたことが悲しいのだろう。 そこまでわかっていても僕は手を差し伸べはしない。 「いつかきっと、君を幸せにしてくれる人が現れるよ」 首を振って否定を告げる魔理沙を置いて、僕は彼女の前から去った。 かわいそうな女の子の泣き声はもう、僕の耳には届かない。 二度と彼女が僕に笑いかけてくれないとしても苦しむ顔を見るよりましだ。 どこかで誰よりも幸せになってくれれば。 それから数年、魔理沙たくましく育った。 それでも魔理沙はまだまだ少女でやんちゃばかりしているが、一人で魔法使いになれるくらい立派になった。 僕は望みどおり、その様子を遠目に眺めているだけだった。 けれど魔理沙は僕の店にたびたびやってくる。 未練がましいことを言うわけでもなく、非難するわけでもなく、言うなれば迷惑をかけにやって来る。 商品を物色して勝手に持ち出したり壊したり、店主としては出入り禁止にしたいところだが、僕にはできないことだった。 僕は迷惑をかけない代わりに未練を抱き自分を非難している。 「なぁ、私まだ幸せになってないぜ」 ある日、魔理沙は店の商品を勝手にいじりながらそんな言葉を零した。 僕に背を向けて少しだけ震えた声で。 その時彼女はやはりまだ子供なのだと強く感じた。 簡単に壊れる虚勢なんて最初から張らなければいいのに。 「きっと、すぐに君の前に現れるさ。まだ若いんだから」 そう言うと魔理沙はうつむいてそっと拳を握った。 力のない彼女の手は誰かが早く包み込んであげるべきだ。 傍観者の僕はただ立ち尽くすことが与えられた役割だ。 色あせることのない暖かな髪をなでる事なんて、してはいけない。 「きっと、すぐに」 振り返って彼女は僕の目を見つめて言った。 裏返りそうな声を必死に堪えて今度は両手で強く帽子を抱いた。 そのままぎゅっと唇を閉じて彼女は出て行った。 僕は彼女の言葉の意味にも、意思にも気づいてはいけない。 深呼吸をすると埃と涙の香りがした。 End