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※学パロ 不変的ユートピア からん、と飲み干したコップの中の氷がぶつかって冷たい音を立てた。 薄いレモン味の水はすっきりと喉を通って正しく胃に落ちる。 私より先に水をぜんぶ飲んでしまった魔理沙が大げさに、わざとらしくため息をついた。 「はぁー、こんな日にまで霊夢と一緒だなんてな」 頬杖をついた魔理沙は雪が降り積もる外の景色に目をやった。 「見ろよ。ホワイトクリスマスだぜ」 「だったら、他に相手見つければいいじゃない」 メニューを開いて適当に上から順番に眺める。 学校からの帰り道、私と魔理沙は時々このファミレスに立ち寄ることがあった。 今日も早く学校が終わったから、こうしてお昼ご飯をたべにやって来たのだけれど、確かにこんな日にこんな相手と来る場所ではないかもしれない。 「他に相手いたらお前なんかと一緒にいないっての」 赤いマフラーを外して膝にかけ、魔理沙がメニューを覗き込む。 シーザーサラダ、と言ってページをめくる。洋食を飛ばして和食のページを開く。 雑炊がいいと魔理沙は早々に決めてしまい、ソファにもたれた。 私は急いでメニューから食べたいものを探す。 「あんたなら、いくらでもいるじゃない」 分け隔てがなく誰とでも仲良くなれる魔理沙は当然、友達は多い。 毎日誰かしらとメールをしているようだし、休日は他校の人と遊びに行くこともあるらしい。 休日は基本的にひとりで過ごす私には信じられないことだ。 魔理沙は私の指摘を受け、苦笑して鞄から携帯を取り出した。 何の操作もせずポケットにしまう。 「こんな日だぜ、みんなそれぞれ予定あるだろ」 「だから、なんでこんな日なのにあんたはいつもの連中と一緒にいないのよ。みんながみんな、彼氏持ちってわけじゃないでしょ?」 すると魔理沙は参ったようにコップに残った氷を口にいれ噛み砕いた。 こんなに寒いのに、と思いながら視線をメニューに戻し、ドリアとほうれん草のソテーにしようと決めて店員を呼んだ。 そのついでに水を注ぎ足してもらい、巻いたままだった黒のマフラーを外して魔理沙と同じように膝にかけた。 何気なく外を見ると傘に雪を乗っけた人たちが早足で行き来していた。 車も慎重になりスピードが遅く、小さな子供は親に注意深く手を引かれ鼻を赤くしている。 店内も昼時ということもありかなり人が増えてきた。 私たちと同じく学校が早く終わった高校生が多く見られるが、私たちのように二人きりで、なんで人はいなかった。 今日どうする? ケーキ作りたいよね。でも夜は家族と過ごすでしょ? 小さいのつくろうよ。じゃあこのあと買い物行こうか。 そんな会話が耳に入り、私は少しさみしくなった。 そして同時に、私の前には誰も知らない魔理沙がいるのだと実感して、頬が熱くなった。 「もしも、だけど」 外を見ながら魔理沙が緊張したような声を出した。 何を言われるのかと私も身構えてしまう。 「もしこういう特別な日に、一緒にいなきゃいけない人ができたとしても」 頬杖を付いた手で髪をいじっている。 これは魔理沙が照れているときの仕草だ。 「たぶん私は、霊夢と一緒にいるんだと思う」 「なぁに、それ」 つい吹き出してしまった私に魔理沙が非難の目を向ける。 「さっきと言ってることが違うじゃない」 「うるさいな」 そわそわしながら水を少しずつ舐めるように飲む魔理沙に、私はにこりと微笑んでやる。 「私も、きっと、そうね」 魔理沙はぐいと水を無理やり飲み干した。 店員がサラダを持ってきたのでまた水をもらい、荒っぽい動作でフォークを握る。 「顔が赤いわ」 「暖房が効きすぎてるんだ」 拗ねたみたいな口調でサラダにフォークを突き刺した。 「でも、それだと相手の人に失礼かしら」 まじめに考えると、まじめに考えなくたって、それはすごく失礼なことなのだろう。 すると魔理沙は人の悪い笑みで確かに、と同意した。 店内に流れるクリスマスソングは普遍性を持たない。 END